労働者にいくら支払えばフェアなのか?リビングウェイジという考え方

企業が労働者に払う賃金はいくらなら適切と言えるのでしょうか?ここではカンボジアの事例やフェアトレード認証団体の姿勢を紹介しながらリビングウェイジ(Living Wage)という考え方について説明したいと思います。

1:リビングウェイジとは何か?

リビングウェイジとは生活に最低限必要な給料金額のこと。例えば医療保険などの社会保障に加入できる、十分に栄養が取れる食事を購入できる、子供を学校に通わせることができる、などの基準に基づいて計算されます。

例えばClean Clothes Campaignのレポート(Tailored Wages)によればカンボジアのリビングウェイジは月に285ユーロ(2014/07/23現在の為替で36374円)。それに対し国の法定最低賃金は72ユーロです。カンボジアの最低賃金で働く労働者は、実に必要な4分の1しか給料を受け取っていない事になります。

この金額は一日に必要な栄養が3000キロカロリーと設定し、4人家族を養える給料金額として計算されています。ですので雇用形態や必要な栄養量の考え方で、設定されている金額に対して批判、再検討の余地があるかもしれません。

しかしカンボジアの縫製工場の労働者は、現状の改革を切実に求めており、ストライキ、デモが相次いで起こっています。今年の初めには、カンボジアの縫製工場労働者が法定最低賃金を月160ドルに上げるようデモを起こした際、警察の発砲によって5人が死亡する事件がありました。

(写真:デモに参加するカンボジアの縫製工場労働者。Photo by Malay Tim, President Cambodian Youth Network. From green left.  )

こうした縫製工場労働者が作っているのは大手アパレルメーカーの製品です。カンボジアでは約70万人の縫製工場労働者がアディダス、ナイキ、プーマ、リーバイス、コロンビア、H&M、ウォールマートなどの製品を製造しています。(1) (2)

(1)Will Adidas garment workers share in its World Cup profit? the guardian.

(2) Striking Cambodian garment workers killed in brutal repression. green left.

 

2:大企業はリビングウェイジを払おうとしているのか?

上記の例からも分かるように、国際的な大企業は現在途上国の労働者に対してリビングウェイジを支払っていません。こうした大企業は、労働者にリビングウェイジを支払う意思はあるのでしょうか? これについては英紙Gardianの記事を見てみたいと思います。

Will Adidas garment workers share in its World Cup profit?

(以下記事要約)

アディダスの年間売上は190億ユーロにも及び、また今年はワールドカップのお陰で、公式スポンサーであるアディダスのサッカー関連の売上は20億ユーロになる見込みだ。 貿易組合、IndustriALLのJyrki Rainaはこういった大企業がカンボジアで生産された製品をより高値で購入することが、労働者の賃金向上につながるだろうと述べている。また労働者に払う賃金を上げても、最終販売価格へは微々たる影響しか与えないと考えている。 IndustriALLは労働者の賃金改善について、カンボジア政府や各企業と交渉しておりその中にはアディダスも含まれている。しかしその一方でClean Clothes Campaignは、アディダスCEOの「人件費の高騰する中国から生産地を移すことを検討している」という発言を指摘し、底辺への競争(Race to Bottom)を加速させるものだと批判している。

(以上記事要約)

 

カンボジア政府としては外資を留めるために、最低賃金や法人税を抑制したいと考えます。その結果リビングウェイジの支払いを含めた、労働環境の改善に対する大きな足かせとなります。 仮に工場を移転するとしても、移転先で労働環境に配慮した操業を行い、適切な法人税を払うのならば、安い人件費をもとめて工場移転を行うことは必ずしも批判の対象とはならないかもしれません。

しかし外資を誘致するための各国間の競争や、カンボジアでの最低賃金の現状を見ると、大企業が積極的にリビングウェイジを支払う意志があるとは思えません。 資本力、ブランド力を持ち、大きな利益を上げている大企業は積極的に労働環境の改善に取り組む必要があります。また情報の公開、フェアトレードや関連した認証の取得を行い、操業の透明性を確保することが求められます。 そして購入者は、企業からの情報を注視して製品の購入を決めなければいけません。利益を得ているにもかかわらず、労働環境の改善に消極的な企業の製品は購入を差し控えるべきでしょう。

*底辺への競争(Race to Bottom)はWikipediaにも日本語の説明があります。

 

3:リビングウェイジの支払いを目指す、アパレル製品の認証団体

オランダをベースとするFair Waer Fundationは加盟企業に対して可能な限りリビングウェイジを提供するよう求めています。日本でも人気のMAMMUTなどのアパレルブランドが参加しています。 ・Fair Waer Fundation living wage: policy and practice

(リビングウェイジの規約と実践についての文章より抜粋)

FWF affiliates are required to use the information from the wage ladder in the negotiation with the supplier on prices. In those cases where wages are below living wages, they should make sure that the prices offered make it possible to increase wages.

要約:メンバー企業はFair Waer Fundationが設定したリビングウェイジの基準に基づき工場への支払価格を交渉する。労働者の給料がリビングウェイジより低い場合、給料の賃上げが可能な価格を工場に支払っていることを確認する。

Fair Waer Fundationの加盟企業に課せられる最低条件はリビングウェイジではなく、法定最低賃金の支払いです。リビングウェイジは段階的に達成する努力目標として設定されています。 企業が製造を依頼する工場は監査の対象となり、法定最低賃金に満たない給料が支払われていた場合すみやかな改善が求められます。また加盟企業はリビングウェイジの支払いのためにどのような努力を行っているか、Fair Waer Fundationにより評価、報告が行われます。 こうした評価はウェブサイト上から確認できますが、リビングウェイジの達成度合いを数字として具体的に記したデータが見つからないのが残念でした。とはいえ、加盟企業は情報を公開し、様々なポイントから評価されているので、商品購入の良い目安になっていると思います。

3:フェアトレードとリビングウェイジ

フェアトレード製品を認証する各団体も児童労働の禁止や雇用契約の明文化などの他に、可能な限りリビングウェイジを支払う旨を、規約に盛り込んでいます。

・WFTO(World Fair Trade Organization)の場合

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WFTO Guarantee System Handbook (6章より抜粋)。リンク先PDFダウンロード)

The FTO is committed to provide living wages for its employees and directly employed producers by adjusting wages according to changes in the cost of living (e.g. inflation) and providing training to optimise productivity.

要約:フェアトレード団体は雇用者に生活費を鑑み調整したリビングウェイジを提供すること。

 

・FLO(Fairtrade Labeling Organization)の場合

Generic Fairtrade Standard for Small Producer Organizations より抜粋

3.3.23 You and the members of your organization must gradually increase salaries above the regional average and the official minimum wage.

要約:団体のメンバー(生産者)は公式の最低賃金から徐々に雇用者の給料を上げていかなければならない。 これらの団体は加盟団体に対して、法定最低賃金の支払いが行われていることを最低条件として求めています。Fair Waer Fundationと同じく、リビングウェイジは企業・団体の運営状況によって、可能な限り追求するべきという姿勢です。

フェアトレードならばリビングウェイジの支払いを、認証の最低条件にするべきだという考えもあるかもしれません。しかし概してフェアトレード団体は小規模で、その利益は大企業ほど大きくありません。利益が少なければ雇用者の給料を上げることも、当然大きな負担になり、場合によってはビジネスとして成立しなくなってしまいます。 大企業と比較してフェアトレード団体の利益が少ないのには様々な理由が考えられます。

・事業規模、販売量が少ないので、事務所の家賃、人件費などの固定費が利益を圧迫している。

・山奥に住んでいる人に製造を発注している、1注文あたりの製造量が少ないなどの理由で輸送費がより掛かる。

・集約的に製造を行っていない、学校教育を受けていない人を雇用するために、雇用者の教育やマネージメントによりコストがかかる。

・大企業ほどのブランド力がないので小売店に対して高めの価格設定を行えない。

・ハンドメイド商品の場合、生産能力が限られている場合が多く、大量生産大量販売というビジネスモデルが成立しない。

・生産者に対する発注・雇用が不定期でフルタイムの労働者が少ない。

・資金力が無いため原材料が長期的に確保できないなど、安定性に欠ける。

フェアトレード認証団体の意義は小規模生産者との取引、社会的に弱い立場の人の雇用など多岐にわたります。例えリビングウェイジを払えなくても、その他の点で生産者の利益を追求しているならば、フェアトレードの意義はあると言えます。 しかしもちろんリビングウェイジの支払いは、フェアトレード製品の生産者団体が積極的に達成するべき項目です。今後フェアトレード認証団体はリビングウェイジも含めた多角的な視点から、個別の生産者団体の評価、報告を今以上に積極的に行っていく必要があると感じます。

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